香原料「龍脳」と書道とカビと、精油の香り。

茶香房ひより

2020年03月10日 20:29

お香の調合っていっても

いったい何をするのかわかんないと思いますが、

ただ香原料を混ぜればいいというわけではないんです。


いろんなお香原料の香りをしっかり覚えることは必須。

香製品の配合の勉強はもちろん、

それだけではなく、

仏教と香の関係やその歴史、

文学との関わりなど、

いろんなこと覚えたり、経験したり。

それでもまだまだ不十分なわけで。

全国でも数十名しかいない

「薫物屋香楽認定教授香司」をしておりますが、

日々修行は続きます。




匂い袋の調合で必須なお香原料のひとつ、

この白い結晶のようなもの、「龍脳」といいます。

皆さま必ず「樟脳でしょ!」っておっしゃいます。

見た目一緒ですからね~

これ、龍脳。


これは樟脳。


う~ん、一緒ですもんね。

龍脳だけの香り確認していただくとわかんないですが、

樟脳もお渡しすると皆さま「あっ、違う」となります。

樟脳はクスノキの葉や枝などから採れる昇華性の結晶。

(しかし天然のものはとても希少であり、
  いまは化学合成されたものを使っています。)


龍脳とは東南アジアのボルネオなどにのみ生育する

フタバガキ科の龍脳樹に含まれている二環式モノテルペン。

ボルネオールですね。

ちなみに樟脳はケトン類のカンファーです。

両者比較すると、

   龍脳は比較的優しい香り

   樟脳はつーんととがった香り、となるでしょうか。

この香りの違いは

アルコールとケトンの違いからくるもの。


アロマテラピーの精油だと

ボルネオールは

イヌラ、タイム・サツレオイデス、

ローズマリー・ベルベノンにも含まれる芳香成分。


カンファーはクスノキはもちろん、

ローズマリー・カンファー、ラベンダー・スピカなどにも

含まれている芳香成分。

どちらも医薬品原料としても使われている芳香成分です。



さて、匂い袋の調合に欠かさないこの「龍脳」ですが、

龍脳樹自体が絶滅危惧種になっており

そのため天然の龍脳はなかなか入手するのが困難な状況です。

ちなみにこれが純天然龍脳。



現在は分子構造がよく似ている樟脳から精製したものを

龍脳として用いています。


  「じや~そんな貴重な香り、

      知らないですよね、龍脳なんて香りは」


ここまで読まれてそう思った人は多いと思いますが、

じつは身近なところで使われています。


書道されてる方はこの香りをご存知なんです。

じつは書道に使う「墨」に使われています。

墨を作るときに使用する「膠」のニオイを消すため

使用されています。




お香調合の勉強を始めた頃、

どうしてもこの「龍脳」の香りは好きになれませんでした。

何か「クサい!」と感じてしまうのです。

なんだか知ってるけど、

生理的に受け付けないなんとも言えない不快なニオイ。

なんでだろ?

ず~っとそう思ってきました。

なんのニオイなのか?

それはですね…

カビのニオイのひとつとして知られているにおい成分

2メチルイソボルネオールに構造がよく似てるんですよね。

私には「墨」の香りというよりも

カビの臭いとしか認知できなかったわけです。

今では龍脳の香りはとても大好きな香りのひとつですけどね。



そうそう、

この龍脳は玄宗皇帝が楊貴妃に贈ったとされる香料のひとつで、

楊貴妃が亡くなるまで身につけていた香りとしても有名であり、

奈良県にあるマルコ山古墳から出土した遺骨から

龍脳の香りが検出されたことでも有名であり、

これらの話しはお香を司るものであれば

基本的知識として知っておくべき知識のひとつなのです。



お香調合は簡単なものから本格的なものまで

いろいろ体験いただけます。

ご興味おありの方は、ぜひ。


















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