香原料「龍脳」と書道とカビと、精油の香り。
お香の調合っていっても
いったい何をするのかわかんないと思いますが、
ただ香原料を混ぜればいいというわけではないんです。
いろんなお香原料の香りをしっかり覚えることは必須。
香製品の配合の勉強はもちろん、
それだけではなく、
仏教と香の関係やその歴史、
文学との関わりなど、
いろんなこと覚えたり、経験したり。
それでもまだまだ不十分なわけで。
全国でも数十名しかいない
「薫物屋香楽認定教授香司」をしておりますが、
日々修行は続きます。
匂い袋の調合で必須なお香原料のひとつ、
この白い結晶のようなもの、「龍脳」といいます。
皆さま必ず「樟脳でしょ!」っておっしゃいます。
見た目一緒ですからね~
これ、龍脳。
これは樟脳。
う~ん、一緒ですもんね。
龍脳だけの香り確認していただくとわかんないですが、
樟脳もお渡しすると皆さま「あっ、違う」となります。
樟脳はクスノキの葉や枝などから採れる昇華性の結晶。
(しかし天然のものはとても希少であり、
いまは化学合成されたものを使っています。)
龍脳とは東南アジアのボルネオなどにのみ生育する
フタバガキ科の龍脳樹に含まれている二環式モノテルペン。
ボルネオールですね。
ちなみに樟脳はケトン類のカンファーです。
両者比較すると、
龍脳は比較的優しい香り
樟脳はつーんととがった香り、となるでしょうか。
この香りの違いは
アルコールとケトンの違いからくるもの。
アロマテラピーの精油だと
ボルネオールは
イヌラ、タイム・サツレオイデス、
ローズマリー・ベルベノンにも含まれる芳香成分。
カンファーはクスノキはもちろん、
ローズマリー・カンファー、ラベンダー・スピカなどにも
含まれている芳香成分。
どちらも医薬品原料としても使われている芳香成分です。
さて、匂い袋の調合に欠かさないこの「龍脳」ですが、
龍脳樹自体が絶滅危惧種になっており
そのため天然の龍脳はなかなか入手するのが困難な状況です。
ちなみにこれが純天然龍脳。
現在は分子構造がよく似ている樟脳から精製したものを
龍脳として用いています。
「じや~そんな貴重な香り、
知らないですよね、龍脳なんて香りは」
ここまで読まれてそう思った人は多いと思いますが、
じつは身近なところで使われています。
書道されてる方はこの香りをご存知なんです。
じつは書道に使う「墨」に使われています。
墨を作るときに使用する「膠」のニオイを消すため
使用されています。
お香調合の勉強を始めた頃、
どうしてもこの「龍脳」の香りは好きになれませんでした。
何か「クサい!」と感じてしまうのです。
なんだか知ってるけど、
生理的に受け付けないなんとも言えない不快なニオイ。
なんでだろ?
ず~っとそう思ってきました。
なんのニオイなのか?
それはですね…
カビのニオイのひとつとして知られているにおい成分
2メチルイソボルネオールに構造がよく似てるんですよね。
私には「墨」の香りというよりも
カビの臭いとしか認知できなかったわけです。
今では龍脳の香りはとても大好きな香りのひとつですけどね。
そうそう、
この龍脳は玄宗皇帝が楊貴妃に贈ったとされる香料のひとつで、
楊貴妃が亡くなるまで身につけていた香りとしても有名であり、
奈良県にあるマルコ山古墳から出土した遺骨から
龍脳の香りが検出されたことでも有名であり、
これらの話しはお香を司るものであれば
基本的知識として知っておくべき知識のひとつなのです。
お香調合は簡単なものから本格的なものまで
いろいろ体験いただけます。
ご興味おありの方は、ぜひ。